長編◇ウイリアムが射る。
つい先日のある日。
沖縄に住むバカボン(仮名)が大分に帰省した。
バカボンは僕の伯父。
この人が酔って熱く弾き語る姿に憧れ
僕がギターを覚えるきっかけとなった
極めて影響力の強い、大好きな
そして少しおかしなおじさん。

歌い散らかすバカボン↑
即興のブルースを歌い始めたら
20分は終わらない、灼熱の歌うたい。
このバカボンだけで
ゆっくり2時間は語れるというほど濃いキャラクターなのだが
この日の主役は彼ではない。
夕方店を閉めた後
大在の伯父伯母の家に僕らも寄せてもらい
6名で美味いおでんを囲み
東北の酒に舌鼓を打っていた。

昔話に花が咲き
大いに笑いあっていたこの飲み会
事件が起きたのは
皆いいほどに酔いも回った21時頃。
「しんいち、これチョット見ちみよ」
この話の主役
家主でバカボンの兄であるコウちゃん(仮名)が
自信満々の笑みで僕に手渡したのは
チープなライフル銃のオモチャ。

「?なんな、これ?」
このコウちゃん
しょうもない遊びに命を賭けるクセがある。
昔から子どもに「これ、買うてきたぞ」と
オモチャを購入してきては
子どもたちよりも熱中して遊び
しかも天才のレベルまで極めるという
なんともいえない、愛らしい性格の伯父さんなのだ。
「こんオモチャがどげえしたん?」
僕が若干冷ややかな目でたずねると
「これがのぅ。あーん100円ショップに売りよってのぅ」
この「あーん」は
酔ったコウちゃんの会話にしょっちゅう出てくる。
言いたい事をを思い出すまでの場繋ぎ的言葉で
特徴的な「ひーっひっひひ」という笑い方と共に
彼の代名詞となっている。
「あーん、そこんあれや、ダイソーや。
これがすげぇけん、ちょっと見ちょらんし」
そういうと
ずいぶん慣れた格好で狙いをつけるコウちゃん。

銃口の先には、キンチョール。

妙に場が静まり返る・・・。
コウちゃんは狙いを定め
静かに引き金を引いた。

パンッ!

ビタんッ!
「おー!!」
夜分に似つかわしくない歓声と爆笑。
2mくらいの距離ではあるが
先っぽに吸盤の付いた矢が
見事にキンチョールに吸い付いた。
「こらまた面白ぇもん見つけたなぁ」
酒を飲みながら笑う僕の横で
興奮するバカボンのヘンテコな沖縄弁
「コウちゃん!これ最高!やっし!」
「ひーっひっひひ。そうやろが」
満足げなコウちゃん。
聞けば帰宅してからの数時間
毎晩ライフルの練習をしているとのこと。
それを聞き
僕は自分の伯父ではあるのだけれど
つい「アホや!コウちゃんアホや!」を連発してしまった。
大盛り上がりの会場に気分を良くしたコウちゃんは
「バカボン、お前 あーん 携帯持ってそこに立っちみ」
楽しく飲んでいたバカボンが
スマホを持ち、ポーズを指定され
突然、兄のおもちゃの的に。

コウちゃんは
さっきよりも明らかに緊張した様子で
呼吸を整えながら、ゆっくりと構え
引き金に指を置き
独り言のように、静かにこう呟いた。

「わしはウイリアムテルや・・・」
・・・いや
あんた ただのコウちゃんや。
※ウイリアムテルとは
弓の名手で息子の頭に置いたリンゴを打ち抜いたことで有名。
とりあえず緊張するバカボン。

バン!

ビタんッ!!
「ひょえーっ!!」

「デージ怖いやっさ・・・」
バン!
「ん?」

ビターんッ!!
「ふぉっ!!??」

コウちゃんは続けざまに矢をセットし
音速で二発打ち
尚且つ見事に的に当てた。
確かにもの凄い腕前だが
結果、ただいたずらに弟をビビらせてしまった。

「な、なし俺が的に。。。」
しょうがないよ、バカボン。
だってキミのお兄ちゃん
今夜はウイリアムテルなんだもの。
「しかしコウちゃん、構えがさまになっちょるなー。
ちょっと写真撮らせてよ」
「ひーっひっひひ。そうか?撮るか?」

なぜか矢を仕込み、引き金を引くコウちゃん。
構えるまでのルーティンが決まっているようだ。
毎日何時間も練習してりゃそうなるか。
「こげん感じかのぉ」

「いい。コウちゃんかっこいいでぇ」
迫真の構えに撮影にも熱が入る。
「正面からもちょうだい!」

回り込んで撮影する僕。
堂に入った構えだ。
まるで、今まさに獲物をしとめんとする
熟練した狩人のような目つき・・・
バンッ!
・・・え?
何を思ったか、コウちゃんは
無抵抗のカメラマンに向け
突如引き金を引いた。

ビタんっ!
撮影中のスマホに矢が突き刺さる!
「ひーっひっひひ!しんいちスキあり!」
スキありじゃねぇ。
大笑いに次ぐ大笑い。
宴は最高潮に盛り上がる。

「しかしこら ホントいいおもちゃやな」
もはやトリコの僕。
ふと思いつき
おもむろに上半身の服をめくり上げる。
「コウちゃん、ここにも付くかやっ!?」

「ひーっひっひひ!あほやな、しんいち。やっちみるかぇ!」
特徴的な笑い方もつかの間
構えると降臨するウイリアムテル。

バン!

「ひょー!」
なんか上手いこと付かんのね。
「お腹に油塗ったら付くかな」
なんて言うてるとすかさずバカボン登場。
「俺も!コウちゃん俺もしてーっ!」

バカづらの酔いちくれおっさん2名の
まごうごとなき醜態の図。
結局バカボンの腹にも付かず。
もっと固いとこじゃねぇと吸い付かんのやろ、と。
「コウちゃん!ここや!ここしかねぇ!」
おもむろに前髪を上げる僕。

「ひーっひっひひ!いいんか!しんいち!?」
「いいで!びたっとやっちくれん!」
酔った勢いだけのアホな行動。
若干リスキーであるものの・・・
そう、僕は信じていた。
毎晩ひたすらに練習していた彼の腕を。
そして、彼が構えるとそこに必ず降りてくる
弓の名手、ウイリアムテ・・・

・・・。
マタギやないかぃ。
あんたもう、森のマタギや。
ウイリアムどこいった。
明らかに今宵のクライマックスをむかえ
張り詰める空気。

南無三・・・
お互いの顔ににじむ汗と緊張。

いくで・・・
バンッ!
ビターんッ!!

・・・っ!。
付いたーっ!!!
日々の修練の甲斐あって
見事におでこをとらえたコウちゃんの矢。
酔いが冷めるほどの緊張から
弾けるような喝采と笑いの渦へとのぼりつめた
美しすぎるエンディング。
いやー、面白かった。
よほど怖かったのか、少々涙目。

そんな僕を尻目に
満足げなコウちゃん。

翌日。
お嫁ちゃまに届いたコウちゃんからのメールがこちら。

なんち愛らしい。
愛らしすぎる!コウちゃん!
でもホント練習してくれててよかった。
以上、親族と繰り広げた
ウイリアム呑み会の一幕。
仲間になりたくなったやろ?
・・・ん?
そうでもねーっち?
沖縄に住むバカボン(仮名)が大分に帰省した。
バカボンは僕の伯父。
この人が酔って熱く弾き語る姿に憧れ
僕がギターを覚えるきっかけとなった
極めて影響力の強い、大好きな
そして少しおかしなおじさん。

歌い散らかすバカボン↑
即興のブルースを歌い始めたら
20分は終わらない、灼熱の歌うたい。
このバカボンだけで
ゆっくり2時間は語れるというほど濃いキャラクターなのだが
この日の主役は彼ではない。
夕方店を閉めた後
大在の伯父伯母の家に僕らも寄せてもらい
6名で美味いおでんを囲み
東北の酒に舌鼓を打っていた。

昔話に花が咲き
大いに笑いあっていたこの飲み会
事件が起きたのは
皆いいほどに酔いも回った21時頃。
「しんいち、これチョット見ちみよ」
この話の主役
家主でバカボンの兄であるコウちゃん(仮名)が
自信満々の笑みで僕に手渡したのは
チープなライフル銃のオモチャ。

「?なんな、これ?」
このコウちゃん
しょうもない遊びに命を賭けるクセがある。
昔から子どもに「これ、買うてきたぞ」と
オモチャを購入してきては
子どもたちよりも熱中して遊び
しかも天才のレベルまで極めるという
なんともいえない、愛らしい性格の伯父さんなのだ。
「こんオモチャがどげえしたん?」
僕が若干冷ややかな目でたずねると
「これがのぅ。あーん100円ショップに売りよってのぅ」
この「あーん」は
酔ったコウちゃんの会話にしょっちゅう出てくる。
言いたい事をを思い出すまでの場繋ぎ的言葉で
特徴的な「ひーっひっひひ」という笑い方と共に
彼の代名詞となっている。
「あーん、そこんあれや、ダイソーや。
これがすげぇけん、ちょっと見ちょらんし」
そういうと
ずいぶん慣れた格好で狙いをつけるコウちゃん。

銃口の先には、キンチョール。

妙に場が静まり返る・・・。
コウちゃんは狙いを定め
静かに引き金を引いた。

パンッ!

ビタんッ!
「おー!!」
夜分に似つかわしくない歓声と爆笑。
2mくらいの距離ではあるが
先っぽに吸盤の付いた矢が
見事にキンチョールに吸い付いた。
「こらまた面白ぇもん見つけたなぁ」
酒を飲みながら笑う僕の横で
興奮するバカボンのヘンテコな沖縄弁
「コウちゃん!これ最高!やっし!」
「ひーっひっひひ。そうやろが」
満足げなコウちゃん。
聞けば帰宅してからの数時間
毎晩ライフルの練習をしているとのこと。
それを聞き
僕は自分の伯父ではあるのだけれど
つい「アホや!コウちゃんアホや!」を連発してしまった。
大盛り上がりの会場に気分を良くしたコウちゃんは
「バカボン、お前 あーん 携帯持ってそこに立っちみ」
楽しく飲んでいたバカボンが
スマホを持ち、ポーズを指定され
突然、兄のおもちゃの的に。

コウちゃんは
さっきよりも明らかに緊張した様子で
呼吸を整えながら、ゆっくりと構え
引き金に指を置き
独り言のように、静かにこう呟いた。

「わしはウイリアムテルや・・・」
・・・いや
あんた ただのコウちゃんや。
※ウイリアムテルとは
弓の名手で息子の頭に置いたリンゴを打ち抜いたことで有名。
とりあえず緊張するバカボン。

バン!

ビタんッ!!
「ひょえーっ!!」

「デージ怖いやっさ・・・」
バン!
「ん?」

ビターんッ!!
「ふぉっ!!??」

コウちゃんは続けざまに矢をセットし
音速で二発打ち
尚且つ見事に的に当てた。
確かにもの凄い腕前だが
結果、ただいたずらに弟をビビらせてしまった。

「な、なし俺が的に。。。」
しょうがないよ、バカボン。
だってキミのお兄ちゃん
今夜はウイリアムテルなんだもの。
「しかしコウちゃん、構えがさまになっちょるなー。
ちょっと写真撮らせてよ」
「ひーっひっひひ。そうか?撮るか?」

なぜか矢を仕込み、引き金を引くコウちゃん。
構えるまでのルーティンが決まっているようだ。
毎日何時間も練習してりゃそうなるか。
「こげん感じかのぉ」

「いい。コウちゃんかっこいいでぇ」
迫真の構えに撮影にも熱が入る。
「正面からもちょうだい!」

回り込んで撮影する僕。
堂に入った構えだ。
まるで、今まさに獲物をしとめんとする
熟練した狩人のような目つき・・・
バンッ!
・・・え?
何を思ったか、コウちゃんは
無抵抗のカメラマンに向け
突如引き金を引いた。

ビタんっ!
撮影中のスマホに矢が突き刺さる!
「ひーっひっひひ!しんいちスキあり!」
スキありじゃねぇ。
大笑いに次ぐ大笑い。
宴は最高潮に盛り上がる。

「しかしこら ホントいいおもちゃやな」
もはやトリコの僕。
ふと思いつき
おもむろに上半身の服をめくり上げる。
「コウちゃん、ここにも付くかやっ!?」

「ひーっひっひひ!あほやな、しんいち。やっちみるかぇ!」
特徴的な笑い方もつかの間
構えると降臨するウイリアムテル。

バン!

「ひょー!」
なんか上手いこと付かんのね。
「お腹に油塗ったら付くかな」
なんて言うてるとすかさずバカボン登場。
「俺も!コウちゃん俺もしてーっ!」

バカづらの酔いちくれおっさん2名の
まごうごとなき醜態の図。
結局バカボンの腹にも付かず。
もっと固いとこじゃねぇと吸い付かんのやろ、と。
「コウちゃん!ここや!ここしかねぇ!」
おもむろに前髪を上げる僕。

「ひーっひっひひ!いいんか!しんいち!?」
「いいで!びたっとやっちくれん!」
酔った勢いだけのアホな行動。
若干リスキーであるものの・・・
そう、僕は信じていた。
毎晩ひたすらに練習していた彼の腕を。
そして、彼が構えるとそこに必ず降りてくる
弓の名手、ウイリアムテ・・・

・・・。
マタギやないかぃ。
あんたもう、森のマタギや。
ウイリアムどこいった。
明らかに今宵のクライマックスをむかえ
張り詰める空気。

南無三・・・
お互いの顔ににじむ汗と緊張。

いくで・・・
バンッ!
ビターんッ!!

・・・っ!。
付いたーっ!!!
日々の修練の甲斐あって
見事におでこをとらえたコウちゃんの矢。
酔いが冷めるほどの緊張から
弾けるような喝采と笑いの渦へとのぼりつめた
美しすぎるエンディング。
いやー、面白かった。
よほど怖かったのか、少々涙目。

そんな僕を尻目に
満足げなコウちゃん。

翌日。
お嫁ちゃまに届いたコウちゃんからのメールがこちら。

なんち愛らしい。
愛らしすぎる!コウちゃん!
でもホント練習してくれててよかった。
以上、親族と繰り広げた
ウイリアム呑み会の一幕。
仲間になりたくなったやろ?
・・・ん?
そうでもねーっち?
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